何事も本気で突き詰めればスゴみが出るし、誰も到達できない領域を見ることになる。そんな世界を見た3本の腕時計には、スゴすぎて笑っちゃうような機能が搭載されている。
これを無駄と笑うか、無限の可能性として面白がるか。圧倒的に後者が素敵じゃない?
ウルベルク「The AMC」
ゼンマイと歯車で駆動する機械式時計は、この先どのように未来の時を刻んでいくのだろう。ひとつの答えはここにあるのかもしれない。
80時間のパワーリザーブを備えた手巻き式だが、それは本来の機能の一部にしか過ぎない。ベースとなる重量約35kgのアルミケースに納まったクロックにドッキングすることで、日付の変わる1分前から日差を検知し同期するとともに、正確な歩度を司る緩急針自体も正確に調整する。さらにプッシュボタンでリュウズを巻き上げることもできる。
だが何よりも肝要はそのクロックが原子時計であることだ。
高精度な原子の周波数標準に基づき、より正確な時間を刻む原子時計は、いまや電波時計の精度を担い、GPS衛星にも搭載され正確な時刻情報を送っている。このクロックにしても変動は317年間に約1秒という精度を保証するという。
手巻きと原子のハイブリッドという発想は、人間が考案した時という概念について考えさせられ、自宅で向き合う時間は、知的好奇心を刺激してくれるだろう。
HYT「スーンナウ インスタントレインボウ」
文字盤には313本のイエローゴールドのピンが打たれ、サイケデリックなカラーリングにスカルのモチーフが浮かび上がる。
このスカルのシルエットに沿って配したガラス製チューブにブルーと透明の液体を満たし、これが時分針に代わって時間を差す。さらに右目はパワーリザーブ、左目は秒について、それぞれ変化する色で表示する。
動力や精度は伝統的な機械式ムーブメントが担い、それを文字盤の下方に位置するふたつのベローズ(ふいご)に伝達し、それぞれを満たす2色の液体の圧を制御し、時刻を差す。
一見すると単純に見えても、じつは特許取得の液体モジュール技術を始め、革新的な複雑機構を秘めるのだ。
時は過去と現在、未来をつなぐ永遠の流れであり、これを川のような液体の流れで表現するとともに、人間がコントロールできないという点では時にも通じる虹の美しさで彩った。
まるで現代アートを手にするような刺激的な発見が、そこにある。
クリストフ・クラーレ「21ブラックジャック」
文字盤をルーレットに見立てた時計はこれまでもあったが、カジノの世界観にここまでこだわった本格派は初めてだろう。
ケース裏にはムーブメントのローターでルーレットの回転テーブルを模し、始動後、数秒間の回転で止まる。さらにケースサイドの4時位置に2個のダイスを収め、小窓越しにわずか1辺1.5mmのミニチュアサイズながら出目が楽しめる。
そしてハイライトが文字盤で展開するブラックジャックだ。9時位置のプッシュボタンでカードがシャッフルし、文字盤の上下に分けたディーラーとプレーヤーの窓に、ディーラー側1枚とプレーヤー側2枚のカードを表示。さらに10時と8時のプッシュボタンの操作で、それぞれの持ち札が加わる。
しかもカードのシャッターが開く度、ハンマーとゴングによるソヌリの音が鳴り、ヒット!を伝えるという趣向だ。
複雑機構の最高峰のひとつであるソヌリを贅沢に用いた、遊びだからこそ本気でやるという大人の洒落っ気だ。